
前歯が噛み合わない状態を確かめる前に知っておきたいこと
奥歯で噛んでも上下の前歯にすき間が残る「開咬(オープンバイト)」は、前歯で負担するはずの力が奥歯や顎へ偏りやすく、食事や発音に影響が出ることもある噛み合わせの状態です。ただし、起こりうる負担の大きさや対処の進め方は、舌の癖や歯の傾き、顎の骨格といった原因によって異なります。この記事では、開咬によって奥歯や顎にどのような影響が生じうるのか、原因別の対応の違い、そして自己流の対策を始める前に歯科医院の検査で確かめておくべきポイントを順にお伝えいたします。
この記事の要点まとめ
- 開咬では、噛む力が奥歯やあごにかたより、食べることや話すことに困りごとが出ることがあります。
- 原因は舌のくせ、歯の傾き、あごの骨の形などさまざまで、それによって対応も変わります。
- 自分でトレーニングを始める前に歯科で検査を受け、今の状態や治し方、費用を相談しましょう。
- 前歯が噛み合わない開咬には、奥歯や顎にどんなリスクがある?
- 開咬の原因は舌の癖?歯並び?骨格?原因によって対処法はどう変わる?
- 自己流の舌トレーニングや噛み方の工夫を始める前に、何を確かめておくべき?
- 歯科では開咬をどんな検査で確かめ、相談はどう進む?
- よくある質問(FAQ)
- 参考文献
- 監修
前歯が噛み合わない開咬には、奥歯や顎にどんなリスクがある?

開咬(オープンバイト)では、前歯で食べ物を噛み切る役割や噛む力を受け止める働きが得られにくく、その分の負担が奥歯や顎の関節に移りやすくなります。食事のしにくさや発音、飲み込み方に変化が出ることもありますが、実際の影響はすき間の程度や期間によって個人差があります。
前歯が噛み合わない状態は開咬?鏡でできる見分けの目安
奥歯をしっかり噛み合わせた状態で鏡を見て、上下の前歯が触れ合わず縦にすき間が残っている場合、不正咬合のひとつである開咬にあたる可能性があります。すき間が前歯の先端だけにわずかにあいているのか、横の犬歯や小臼歯(手前の奥歯)まで広く開いているのかによって、噛み合わせの状態は異なります。
子どもの頃からすき間があったケースだけでなく、大人になってから後天的に前歯が噛み合わなくなってきた場合は注意が必要です。歯周病による歯の移動や、奥歯の詰め物・被せ物の変化、顎関節(あごの関節)の変形など、別の要因が隠れていることもあります。年齢による自然な変化として見過ごさず、歯科医院で状態を確認することをおすすめしています。
前歯の代わりに奥歯が力を受け止める仕組みと、詰め物・被せ物のある歯への影響
本来、噛む力や顎を横に動かしたときの負担は、前歯と奥歯が分担して受け止めています。しかし前歯が接触しない開咬では、上下の歯が触れ合う奥歯だけに力が偏りやすくなります。歯を強く食いしばったときには、自分自身の体重に匹敵するほどの大きな力が奥歯にかかることが報告されています1。
この力が毎日繰り返されると、過去にむし歯の治療をして詰め物や被せ物が入っている奥歯では、修復物が欠けたりすり減ったりする原因になることがあります。また、食後に奥歯がだるく感じる、顎のまわりが疲れやすい、口が開けにくいといった顎関節症につながる負担が生じる場合もあります。
噛み切りにくさ・サ行やタ行の聞き取りにくさ・飲み込み方の変化
上下の前歯が閉じないと、麺類やサンドイッチの具、葉物野菜などを前歯で噛み切りにくくなり、最初から奥歯ですり潰すような食べ方に偏りがちです。噛み砕く効率(咀嚼能率)が下がることで、食事に時間がかかったり丸飲みに近くなったりすることもあります。
また、病気やけがで、音を作るときに使う口の部分が欠けたり形が変わったりして起こる発音の問題は「器質性構音障害」と呼ばれます2。開咬では前歯のすき間から息が漏れやすいため、サ行・タ行・ラ行の発音がはっきりしないことがあります。
さらに、飲み込むときに舌を前歯のすき間へ押し出す「異常嚥下癖(いじょうえんげへき)」は、開咬といっしょに見られやすいことが知られています。ただし、どちらが先に起こるのかは、まだはっきり分かっていません3。
放置した場合のリスクは、すき間の程度・期間・奥歯の状態で変わる
前歯が噛み合わないからといって、すべての方に同じ症状が現れるわけではありません。放置した場合の影響の大きさは、次の要素が重なっているかどうかで変わってきます。
- 上下の前歯のすき間の広さと、噛み合っていない歯の数
- 開咬の状態がどのくらい続いているか
- 奥歯の詰め物・被せ物の状態や、抜けた歯・歯周病があるかどうか
- 寝ているあいだの歯ぎしりや、日中の食いしばりの癖
すき間が小さく、奥歯や顎に違和感がなければ経過観察となることもありますが、現在かかっている負担の程度をご自身で測ることは困難です。まずは歯科医院で奥歯や顎の状態を確かめておくと、今の負担の程度が分かります。
ポイント
開咬では前歯が噛み合わない分の力が奥歯や顎に集中しやすく、詰め物のトラブルや食後のだるさ、発音への影響につながる場合があります。
開咬の原因は舌の癖?歯並び?骨格?原因によって対処法はどう変わる?
開咬の原因は、舌や指などの日常的な習慣によるもの、歯の傾きや生え方によるもの(歯性)、上下の顎の骨の形によるもの(骨格性)に大きく分かれ、複数が重なっているケースも珍しくありません。何が原因かによって、癖の見直しから矯正治療、骨格への対応まで進め方が変わります。
舌突出癖・指しゃぶり・口呼吸など、習慣が関わる開咬の対処法
ミルクを飲むため以外に指やおしゃぶりを吸う癖(子どもの頃の指しゃぶりなど)は、前歯の開咬と関わりがあることが研究で示されています4。また、無意識に舌で前歯を内側から押し出す「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」や、口がぽかんと開く口呼吸の習慣があると、前歯に弱い力が持続的にかかり、上下のすき間が閉じにくくなります。
このような習慣が関わっている場合は、舌の正しい位置や唇を閉じる力を身につける口腔筋機能療法(MFT:お口のまわりの筋肉のトレーニング)を、矯正治療と組み合わせて行う考え方があります3。大人になってから舌や飲み込み方の練習をすることに気恥ずかしさを感じる患者さまもいらっしゃいますが、歯を動かす治療の妨げを減らすための基礎的なステップとして位置づけられています。
歯の傾きによる「歯性」と、上下顎のずれによる「骨格性」の見分け方
開咬は、原因となる部位によって「歯性(しせい)」と「骨格性(こっかくせい)」に分けられます。それぞれの特徴と一般的な対応の考え方は以下のとおりです。
| 分類 | 主な原因と特徴 | 検討される主な対処法 |
|---|---|---|
| 歯性開咬 | 前歯が前方へ傾いている、または前歯が十分に生えきっていない状態 | ワイヤー矯正やマウスピース矯正による歯の移動、お口の筋肉の訓練の併用 |
| 骨格性開咬 | 上下の顎の骨の角度が開いている、または顔の下半分が縦方向に長い骨格 | 矯正装置に加え、奥歯を骨の方向へ沈める処置(圧下)や、必要に応じた外科的処置 |
鏡で見たすき間の大きさだけでは、歯性と骨格性のどちらがおもな原因かは分かりません。顔の横から撮るセファロ(頭部X線規格写真)などのレントゲンで、顎の骨の角度や歯の傾きをはかって見きわめます。
骨格の要素が強いときは、矯正用の小さなネジを支えにして奥歯を沈める治療が選ばれることがあります。この方法でも、沈めた上下の奥歯が1〜3割ほど元に戻ることがあり、戻りやすさは外科手術による治療と同じくらいとされています5。
成長期のお子様と大人では、治療の選択肢や始める時期がどう違う?
永久歯が生えそろう前のお子様の一期治療は、小学生の頃に始めることが多い治療です。顎の骨の成長をコントロールすることを主眼に置き、指しゃぶりや舌の癖への対応を並行して進めやすい時期です。
一方、二期治療は大人の歯がほぼ生えそろったあとに始めます。歯に矯正装置をつけて、歯並びと噛み合わせを仕上げる進め方が基本です。大人の方では、あごの骨の成長が終わっているため、歯を動かす治療が中心になります。
お子様が舌を前に出す仕草を見て「自分と同じ開咬になるのではないか」と心配される保護者の方もいらっしゃいます。親子で似た癖が見られる場合でも、骨格の遺伝的な要素と後天的な習慣のどちらが強く影響しているかは一人ひとり異なるため、それぞれのお口の状態を歯科医院で確かめることをおすすめしています。
自己流の舌トレーニングや噛み方の工夫を始める前に、何を確かめておくべき?
始める前に、歯科医院で開咬の原因と、今の症状が早めの処置が必要なものかどうかを確かめておきましょう。自分なりの舌の運動は、すき間の原因が歯の傾きや骨格にあるときは、効果が出にくいことがあります。また、噛み方を自分で変えると、片側の奥歯やあごの関節に負担がかたよることがあります。
「舌の運動だけで治る」「大人の開咬も自然に閉じる」はよくある誤解
「前歯のすき間は舌の筋トレを続ければ自然に閉じるのではないか」と考える方は少なくありません。乳歯が生えている時期に指しゃぶりなどの習慣をやめることで、成長とともにすき間が小さくなる例はあります。しかし、顎の骨格や歯の位置が定まった大人の開咬が、自然治癒することは期待しにくいのが実情です。
歯の傾きや骨格が原因のすき間は、お口の機能訓練だけでは閉じにくいため、必要に応じて矯正治療とあわせて考えます。また、前歯で噛めないからといって片側の奥歯ばかりで意識して噛むようにすると、詰め物のある歯や片方の顎関節へ負担を偏らせてしまうため注意が必要です。
早めに受診したい症状と、通常の相談でよい症状の判断基準
痛みが強くない段階では「こんなことで受診してよいのだろうか」と迷われがちですが、症状によって受診を急ぐべきかどうかの目安が異なります。
- 早めの受診を検討したい症状:口を開け閉めするときに顎が痛む、指を縦に3本そろえて入れられないほど口が開けにくい、噛むと特定の奥歯に鋭い痛みがある。ほかに、詰め物が欠けた・外れた、数ヶ月の間に前歯のすき間が目立って広がってきた場合も当てはまります
- 通常の相談予約でよい症状:以前から前歯にすき間があり食べ物が噛み切りにくい、電話応対などでサ行の発音が気になる、食後に奥歯や顎に軽いだるさを感じることがある
歯科医院は「歯が悪くなって痛んでから行く場所」と思われがちですが、強い痛みが出る前に現在の噛み合わせのリスクを知っておくことは、将来の歯を守るうえで大きな意味を持ちます。
治療を選んだ後も知っておきたい、後戻りと保定の考え方
もし将来的に矯正治療を選択する場合、事前に知っておきたいのが「後戻り(歯が元の位置へ戻ろうとする動き)」と、それを防ぐ「保定(ほてい)治療」です。開咬は、矯正治療を終えたあとも舌の癖や周囲の筋肉のバランスによって後戻りが起こりやすい噛み合わせのひとつとされています3。
そのため、歯を動かす装置を外したあとは、取り外しができる保定装置(リテーナー)を装着して歯の位置を安定させる期間が必要です。あわせて、舌を正しい位置に置く意識を続けることも欠かせません。治療を始めるかどうかを決める前の相談段階であっても、装置を外した後の保定期間や通院の見通しまで含めて説明を受けておくことが大切です。
ポイント
大人の開咬は自然には閉じにくいため、自分なりの対策を始める前に歯科医院で原因をたしかめましょう。痛みがあるときや詰め物がとれたときは、早めに受診してください。
歯科では開咬をどんな検査で確かめ、相談はどう進む?

歯科医院では、お口の中の診査に加えて写真撮影、歯型や口腔内スキャナーによる記録、レントゲンやセファロ撮影などを組み合わせて、すき間の程度や歯の傾き、顎の骨格、奥歯の状態を確かめます。そのうえで、原因に応じた対処法や費用の目安、期間の見通しを説明します。
口腔内の診査・写真・歯型や口腔内スキャナーで分かること
まずはお口の中を拝見し、上下の前歯のすき間が何ミリあるか、奥歯がどの位置でどのように当たっているか、過去の詰め物や被せ物の状態、むし歯や歯周病の有無を確認します。同時に、唾液を飲み込むときの舌の動きや発音の様子を確認することもあります。
さらに、お口の中と顔全体の写真を撮影して口元のバランスを記録し、歯型をとります。小型カメラでお口の中をなぞる「口腔内スキャナー(iTeroなど)」を用いる場合は、粘土のような材料を使わずに歯並びや噛み合わせを三次元のデータとして記録できます。画面上で今の歯の当たり方を目で見て把握しやすくなります。
レントゲンやセファロで、骨格と歯の傾きを確かめる理由
お口の中を直接見るだけでは分からない顎の骨の状態を調べるために、レントゲン検査を行います。とくに矯正の診断で用いられるセファロ(頭部X線規格写真)は、上下の顎の骨の位置関係や角度、前歯がどのくらい前方に傾いているかを数値で計測できる検査です。これにより、歯性か骨格性かといった開咬の成り立ちを見極めます。
また、顎関節の変形が疑われる場合や、骨の厚みを立体的に把握する必要がある場合には、歯科用CTの撮影を検討することもあります。なお、初回の相談ですべての方にこれら全ての精密検査を行うわけではなく、お困りの症状やご希望に合わせて必要な検査を選択します。
一宮市の当院で相談する場合、初診から方針の説明までの流れ
当院で開咬の相談を受ける場合、まずは問診で「サンドイッチが噛み切りにくい」「サ行の発音が気になる」「奥歯がだるい」といった日常のお困りごとを伺います。周囲に聞かれにくいお悩みも落ち着いて話せるよう、当院には個室の診療室があります。また、お子様の癖が気になる場合はご家族と一緒に説明を聞くことも可能です。
お口の中と顔の写真、歯型、レントゲン写真で診断したあとは、現在の歯並び、考えられる原因、治療を行う場合の内容とおおよその期間をご本人とご家族にご説明します。矯正治療の前にむし歯の治療や抜歯が必要な場合は、院内で一般歯科の処置を先に受けていただきます。
なお、開咬の矯正治療は、ふつうは保険がきかない自由診療です。検査や診断、装置、通うたびの調整、後戻りをふせぐ装置などを合わせると、数十万円以上かかることが多いです。金額は医院や方法によって変わります(※一般的な目安で、当院の費用ではありません)。
矯正治療では、歯が動くときの痛みや違和感、治療後の後戻りが起こることがあります。また、歯を動かすことで歯の根が短くなる「歯根吸収」や、歯ぐきがやせて下がる「歯肉退縮」が起こる場合もあります6。
相談を受けたからといって、その場で治療を始めるかどうかを決断する必要はありません。まずはご自身の前歯のすき間と奥歯の負担に関係があるのかを知るために、費用や通院ペースも含めて疑問点が解消されるまで歯科医師に確認してみてください。
ポイント
検査で歯並びと骨格の両面から原因を確かめることで、ご自身の状態に合った対処法や期間、費用の見通しを具体的に把握できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 口の中や舌を噛む癖はADHDなどの特性と関係がありますか?
A. 頬の内側や舌を噛んでしまう癖は、噛み合わせのバランスや歯並び、ストレス、睡眠中の歯ぎしりなど多様な要因で起こります。発達の特性との関連を一概に判断することはできないため、まずはお口の中に当たりやすい歯や詰め物がないかを歯科医院で確認することをおすすめします。
Q. 矯正治療の途中で、一時的に余計に噛み合わなくなることはありますか?
A. 歯を動かしていく過程で、これまで当たっていた歯の接触が変わり、一時的に噛みにくさや違和感を覚える時期が生じることはあります。ただし、装置のずれや破損が原因で噛み合わなくなっているケースもあるため、違和感が強い場合は我慢せず担当の歯科医師へお伝えください。
Q. 詰め物がある奥歯のだるさだけ先に診てもらうことはできますか?
A. もちろん可能です。いきなり矯正治療の相談をするのにためらいがある場合は、まず一般歯科の診察として、だるさを感じる奥歯の詰め物の適合状態や、むし歯・歯周病の有無、強く当たりすぎている箇所がないかを確かめることから始められます。
参考文献
1. スポーツと歯科 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/relation/sport_05.html
2. 言語機能と構音障害 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/relation/language_02.html
3. Cenzato N, Iannotti L, Maspero C. Open bite and atypical swallowing: orthodontic treatment, speech therapy or both? A literature review. European journal of paediatric dentistry (2021) PMID: 35034464 DOI: 10.23804/ejpd.2021.22.04.5
4. Gao C, Wang M, He H et al. Association between Non-nutritive sucking habits and Anterior open bite: A systematic review and meta-analysis. BMC oral health (2025) PMID: 40619361 DOI: 10.1186/s12903-025-06040-z
5. González Espinosa D, de Oliveira Moreira PE, da Sousa AS et al. Stability of anterior open bite treatment with molar intrusion using skeletal anchorage: a systematic review and meta-analysis. Progress in orthodontics (2020) PMID: 32888097 DOI: 10.1186/s40510-020-00328-2
6. 矯正歯科(矯正歯科、いびき歯ぎしり外来) – 岩手医科大学附属病院. https://www.hosp.iwate-med.ac.jp/clinics/d06/
1996 年 愛知学院大学第二口腔外科 入局
1996 年 名古屋第一赤十字病院 卒後研修
1996 年 ハセベ歯科
1996 年 豊田市榊原歯科 非常勤代診
1996 年 名古屋市中区谷口歯科 非常勤代診
2001 年 ハセベ歯科 開業
2001 年 日本口腔インプラント学会
2001 年 100 時間研修課程 修了
2003 年 日本口腔インプラント学会会員
2011 年 5 月 オーキッド歯科 開業
2013 年 10 月 医療法人 オーキッド会 設立
2014 年 9 月 日本歯科審美学会会員
2015 年 11 月 アメリカインプラント学会
2015 年 11 月 MAXI Course
2015 年 11 月 300 時間研修課程 修了
2018 年 6 月 ノーベルバイオケアインプラント公認ド
クター
・口腔インプラント専門医
・アメリカ口腔インプラント学会(AAID)
あわせて読みたい関連記事

